コミュニケーション

 コミュニケーションを活性化させるには、場を外部からデザインするだけでは不十分である。コミュニケーションスキルに熟達した参与者らが集結して初めて、コミュニケーションの場が活性化される。コミュニケーションスキルとは、相手の出方に合わせて臨機応変に振る舞い分ける能力である(串田, 1999)。昨今、社会全体としてコミュニケーションの場の活性化に関心が高まり、あらゆる方法論が脚光を浴びていることは自明である。しかし、“コミュニケーションスキルをいかに学ぶか”という方法論は十分に議論されておらず、ほとんどが学習者の裁量に委ねられてきた。

 では、学習者はいかにしてコミュニケーションを活性化させるスキルを獲得することができるのだろうか。これまでに、スポーツや音楽演奏におけるスキル向上においてからだメタ認知(諏訪, 2005)が有用であることが示されてきた。諏訪研究室では、コミュニケーションスキルの熟達過程においても、からだメタ認知を用いた学びが有用であると提唱したい。コミュニケーションスキルについても、その学習の過程においては新たな着眼点の発見が不可欠であり、身体スキル熟達と同様の構造であるためである。コミュニケーションスキルを、各々が持つ才能として暗黙的に論じるのではなく、まるでスポーツスキルのように、誰もが経験的に“学習”し、“熟達”することができる身体スキルとして論じるべきである。

 コミュニケーションという行為が身体に根ざした知(身体スキル)であるということは、場で生起するコミュニケーションの質が、場を構成する物理的要素やそれらの関係性に強く依存することからも明らかである。例えば(戸松, 2004)は、場の構成人数により生起するコミュニケーションの性質が定まる可能性を指摘している。(荻田, 2011)は、自らの実体験から得た経験則をもとに、複数人が「一緒に考える」場づくりにおいて有用なコツを言語化したが、その中には使用する文房具や参与者間の物理的距離を調整するなど、空間デザインに関する記述が多く含まれている。コミュニケーションとは、場において偶発的に生起する現象ではなく、参与者が主体的にその性質をデザインできる活動である。

 現在諏訪研究室では、からだメタ認知を通じ学習者が能動的に新しい着眼点を発見することによるコミュニケーションスキルの学習方法論を模索している(例えば坂井田, 2011)。また諏訪研究室の扱うあらゆる研究分野には、コミュニケーションが介在する。諏訪研究室ではこれまでに、学習者の学習効果を高める協調学習やワークショップの方法論(例えば荻田, 2011;橋爪, 2012)、生徒や選手に考えさせるコーチング方法論(例えば石原, 2011)、人の創造的思考を解き明かすインタビュー方法論(忽滑谷, 2011)、生活者の意識を変化させるための余暇デザイン方法論(坂田, 2011)などが探究されてきた。これらの方法論は全て、その場で生起するコミュニケーションをいかに活性化させるか、という問題を孕んでいる。



 

参考文献

    荻田彰子: 「一緒に考える」をデザインする, 慶應義塾大学総合政策学部2010年度卒業プロジェクト (2011)
    橋爪萌: 創作活動におけるこどもの“夢中状態”の導出 ―夢中にさせる場のデザインに向けて―, 慶應義塾大学総合政策学部2011年度卒業プロジェクト (2012)
    石原創, 諏訪正樹: 身体的メタ認知を通じた身体技の「指導」手法の開拓, 第9回身体知研究会(人工知能学会第2種研究会) SKL-09-03, pp. 19-26 (2011)
    忽滑谷春佳, 諏訪正樹: ナラティブ生成を目的としたインタラクティブなインタビュー手法の提案―建築学科の設計課題を例にして, 第11回身体知研究会(人工知能学会第2種研究会) SKL-11-01, pp. 1-6 (2011)
    坂田彩衣, 坂井田瑠衣, 諏訪正樹: 余暇という視点から生活をリデザインする試み, 第25回人工知能学会全国大会論文集 (2011)
    串田秀也: 会話分析の方法と論理―談話データの「質的」分析における妥当性と信頼性, 伝康晴・田中ゆかり編: 講座社会言語科学6「方法」, ひつじ書房, pp.188-206 (2006)
    諏訪正樹: 身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化, 人工知能学会誌,20(5), pp. 525-532 (2005)
    坂井田瑠衣, 小林郁夫, 荻田彰子, 諏訪正樹: 場を活性化させる役回りの自己開拓手法の提案, 第25回人工知能学会全国大会論文集 (2011)
Top