諏訪研概要

 「身体を考える生活」とは何だろうか?
 諏訪研究室はそれ自体を考える場であるといってよい。

 「考える」とは、頭だけで考えるのではない。身体が無意識にやってしまっている様々なことを一度じっくりとことばにして探究してみようではないか。専門語で言えば、「からだメタ認知」という探究方法論である。ことばにするからと言って、それは自分の身体を分析して解明しようというのではない。ことばにするからこそ、様々な意識がつながり関係性が理解でき始めるとともに、更に謎は深まるのである。身体を考えるとはそういう行為かなと考えている。(諏訪, 2005;古川編著,諏訪著, 2009,諏訪&赤石, 2010)

 より学問的な香りのする言葉で表現すれば、認知科学的/アフォーダンス的な視点から、身体・生活・学びの場の”デザイン”を行う方法論を模索する研究室である。
生活や学習の場のすべては身体に根ざしている。「身体を考える生活」とは、いまいちど自らの身体に目を向けて、生活や学びの場を考え直してみようというメッセージを込めたフレーズである。

 したがって、諏訪研究室が”デザインする”対象は、生活の様々な側面を含み、実に多種多彩である。
例えば、以下の研究が進行中である。

    (1)身体スキル(こつや技)のサイエンス
    (2)感性的スキル(考え方や世界の見方)の開拓 とそのための生活環境のデザイン
    (3)コミュニケーション(学習や自己表現の場)の暗黙的側面の開拓とデザイン
    (4)コーチング(教えること)の方法論の模索
    (5)創造性を促す教育の場のデザイン(成人,創造者,子ども)
    (6)学び及びコーチング環境をIT技術/人工知能技術で支援するためのデザイン
    (7)学び及びコーチング環境を計測技術(例えばモーションキャプチャなど)で支援するためのデザイン
    (8)学び及びコーチング環境を支える(”身体を考える”ことを促す)文房具のデザイン
    (9)身体を考えることで生まれたプロセスを他者に伝える方法論/媒体の考案
    (10)身体を考える生活を世に普及するためのイベント企画
    (11)身体視点から衣食住を考える生活のデザイン
    (12)自己表現の方法論の開拓

これらはすべて、”デザイン”の問題である。”デザイン”は広義であり、深淵である。

 例えば、スキルの問題をとりあげよう。身体は環境からアフォーダンス(新しい変数)を感じとり、環境に適応する形でこつ・技・知恵を体得し、環境と共生しながらそのスキルを発揮する。その意味で、スキル(身体、感性ともに)を開拓する行為とは、身体や感性が環境にうまく整合する方法を模索し構築する(つまりデザイン)ことに他ならない。コミュニケーションやコーチングといった社会行為は、他人とのやりとりという場をデザインすることに他ならない。

 上記のテーマを研究するための基本的方法論として、認知科学的な概念(身体性、メタ認知、アフォーダンス、内部観測、構成的方法論の考え方)を据える。
諏訪の考えでは、認知科学とは世界をあらたな視点で捉え、世界をリ・デザイン(re-design)するための学問である。

 上記に加え2011年度から、”心とコミュニティーの復興支援”プロジェクトを立ち上げている。震災を経験した現在の日本社会における諸問題を掘り下げ、メタ認知的な考え方を基軸とする認知科学がそれらにどう貢献できるかを全学生の共通プロジェクトとして設定し、社会貢献のアイディアを醸成中である。