デザインと聞くと、少なくとも一般生活者のあいだでは(もしくは研究者のなかでも)、ファッション、プロダクト、建築などの分野で職業デザイナーが為すことがら(狭義のデザインと称する)を思い浮かべることが多い。
ここではより広義に「デザイン」を捉えている。画家、写真家、工芸に携わる職人、アスリート、俳優らも実は「デザイナ-」である。
いずれも、意識的に自らの身体の声を聴き、身体を開拓するプロセスを経た結果として、芸や技を手にいれている。芸や技を手に入れるためには、「身体と意識をデザイン」する必要がある。
職業デザイナーの多くが、コンセプトの創出という初期過程でスケッチを行う。デザインスケッチがアイディアを生む際にどう寄与するのかを探究した研究(例えばSchon, 1983; Suwa et.al, 2000)から、デザイン行為の本質に関する知見が得られている。
- (1)第一に、様々な変数及びそれらの関係性に対する認識や、それらに対する意味付け(解釈)がデザイン過程で多様に変容・進化することが、デザインプロセスの重要側面であるという点である。
- (2)第二は、デザインの目標に関することである。デザインしながら動的に目標自体を進化させ、進化した目標を満たすプロダクトを制作するという行為が、デザインのもうひとつの重要側面である。少し補足する。何かをデザインする際には、達成すべき目標(専門用語では“デザイン仕様”)が最初に与えられる。「◯◯な暮らしのスタイルに合った家を立てて欲しい」という抽象概念的仕様もあれば、「これくらいの床面積や暖房効率」というように数値表現できる仕様や「これこれこんな機能を持つ◯◯」という機能的仕様もある。初期に与えられた目標(仕様)を満たすだけのプロダクトをデザインしても創造的なデザインとはいえない。デザインしながら動的に目標自体を進化させ、進化した目標を満たすプロダクトを制作するのが「真のデザイン」である。進化した目標は、デザインプロセスが始まる時点では思いもよらなかった(語られなかった)ものであるけれど、当初の目標に矛盾しないものであるべきことは言うまでもない。
上記の(2)が「問う行為」である。問題発見(problem-finding)のプロセスだと言ってもよい。
しかし問うているだけでは世の中は進まない。その問いに答えるべく何らかの行動を起こす。それが「表す行為」である。
デザイナーがプロダクトを世に出す行為も「表す行為」であるし、その途中のプロセスでスケッチを描くことも「表す行為」である。
スケッチを描いた結果、描く前には思いも寄らなかった何かを発見する可能性がある(それが上記の(1)に該当する)。その結果、また新たな問い(上記の2)が生まれるかもしれない。
デザインとは世の中に何が必要かを「問い、表す」行為なのである。「問い、表す」行為は永遠に続く。ひとつ問いを立てては、それに答えるための実践を行う。
実践は世の情勢との関係で様々なインタラクションをもたらす。その結果、当初は予期しなかった現象が生まれる。するとまた新たな問いが立つ。その繰り返しなのである。この繰り返し構造を一般化してモデル化したのがFNSモデル(中島他, 2008)である。詳しくは、構成論的アプローチ(FNSダイアグラム)を参照のこと。
参考文献
- Schon, D. A. (1983), The Reflective Practitioner, Basic Books, New York.
- Suwa, M., Gero, J.& Purcell, T. (2000), Unexpected discoveries and S-invention of design requirements: important vehicles for a design process. Design Studies, 21, 539-567.
- 中島秀之、諏訪正樹、藤井晴行.(2008).構成的情報学の方法論からみたイノベーション, 情報処理学会論文誌, 49(4),1508-1514.