問うことは、解くべき問題の発見(problem-finding)と解く手法の模索(problem-solving)からなる。特に前者が重要で、問題は与えられるものではなく、自ら何が問題かを発見するという側面がなければデザインではない。
表すとは、実際に解くことの実践に相当し、行為が世の中に具現化/表現化される。実践するとそれは社会的インタラクションを引き起こし、その結果として、当初想定したものごと以上の何かが生まれ、新たな問いが生まれる。問うことは意識領域の行為であり、表すことは社会的行為である。
中島氏、藤井氏、諏訪は、現象学哲学のノエマ・ノエシスという概念(木村, 2005)を用いて、新しいものごとが世に誕生するプロセスの一般的構造(図を参照)を論じて来た(Nakashima et.al, 2006;中島他2007;中島他2008;諏訪2011)。
“問う”という意識領域の行為は、社会的インタラクションで成立するものごと(変数、関係性、評価尺度)を認識するという行為(現在ノエマを生む行為)と、それに基づいて未来を想像する(未来ノエマを生む)行為からなる。「問い」や「目標」と呼ばれるものは、未来ノエマに該当する(図ではNF:時刻tにおける未来ノエマはNF(t))。
未来ノエマに基づいてものごとを誕生させてみる実践が“表す行為”である。図ではC1がその行為に該当する。
問いの実践は、そのときの社会情勢とインタラクションを生む。社会情勢が図ではE(t+1)であり、インタラクションがC1.5である。
インタラクションの結果、何か新しい現象が生まれる可能性がある。それを見出す(解釈する)行為がC2であり、その結果生まれる認識が現在ノエマである。図のNC(t+1)がそれに該当する。現在ノエマは、必ずしも実践の基になった未来ノエマ(時刻tのNF)とは一致しない。想定したことが達成できなかったという負の意味での不一致もあれば、想定外の新しい変数や評価尺度を見出せたという正の意味での不一致もあり得る。
その差異が原動力になって、新しい未来ノエマ(NF(t+1))が生まれる。
このように意識(ノエマ)と社会的実践行為の共進化が進む。これをFNSサイクルと呼ぶ。
参考文献
- 木村敏.(2005).あいだ.ちくま学芸文庫.
- Nakashima, H., Suwa, M., & Fujii, H. (2006). Endo-system view as a method for constructive science, Proc. of the 5th International Conference on Cognitive Science, ICCS2006, pp.63-71.
- 中島秀之、諏訪正樹、藤井晴行.(2007).縦の因果関係.日本認知科学会第24回大会発表論文集, pp.258-263.
- 中島秀之、諏訪正樹、藤井晴行.(2008).構成的情報学の方法論からみたイノベーション, 情報処理学会論文誌, 49(4),1508-1514.
- 諏訪正樹.(2011).“学びのデザイン”の研究があるべき姿―「こと」のプロセスの事例探究.日本デザイン学会誌,デザイン学研究特集号「メタデザインへの挑戦」,Vol.18-1, No.69, pp.66-69.