本研究は、メタ認知的言語化が日々の生活にどのような意味をもち得るか、実践を通じて行為当事者の視点から考察しました。
3人の仲間が集まって、各々が関心のあるタスクを設定(サーフィン、ヨガ、腰割り)し、タスク遂行の中で、自らの言語的思考、環境からの知覚、身体動作からの知覚に意識をむけ、その認知を言語化し続けることを試みました。
日々の生活の中で、言語化する行為を習慣化するため、Evernoteに日記を書くという環境をデザインしました。blog 等と比較して少ないクリック数で書くフェーズにたどり着けること、オンライン上で仲間の日記をリアルタイムに共有・閲覧することができることに大きなメリットがありました。日記に記す内容は、タスクに関連することに限定せず、認知したことを幅広く書き記すこととした。
また、週に1回ミーティングを開催し、Face to Face で言語化内容を披露する場を作りました。
タスク内容が異なり、なおかつ知り合ったばかりの3人が集まった本プロジェクト。言語化内容を披露するミーティングの場は、最初は手探りでした。しかし、各々が体感しているメタ認知言語化のむずかしさ、続けることの大変さを共有するようになると、タスク内容のみならず、他のメンバーの言葉やふるまいに関心が出てくるようになりました。
そのような新たな関係性を有した場で、3人の関心の共通項が「やる気」である、ということに気づきました。そこで、やる気とメタ認知的言語化に関係性が見出せるかどうか検証することにしました。その時点で蓄積された5ヶ月分の日記データを自ら振り返り、主観的評価により5段階のやる気得点をつけ、やる気を可視化しました。そのやる気得点と日記の文字数の関係を調べると、Miwako(腰割り)0.74, Kent(サーフィン)0.97, Bibi(ヨガ)0.80と極めて高い相関がみられました。この結果を用い、日記の文字数≒やる気という従属変数と捉え、従属変数そのものの意味に、また影響を与える要因(変数)等について相互に言語化を繰り返していきました。
その結果、変数の数値化・グラフ化を通じて、腰割りでは、新たな身体部位言語の獲得とやる気の関係性、サーフィンではコツの発見と意識の変化、ヨガでは生活リズムと日記空白期間の関係性などの気づきがありました。また、言語化する言葉の中にも、メンバーの発する言葉に影響を受けるものが増えていったことも明らかになりました。
約半年間続けたメタ認知の記録を分析する作業は、これまでなんとなく過ごして、するするとこぼれ落ちていった時間を紡き直すような作業でした。毎日続けた記録は、文面に書かれていることたけでない、そのときの自らの状態がありありと蘇ってくるような、生きたツールになり、これまで真っ暗だった自分自身の心と体の“はらたきかた”を知るための強力な手かかりとなりました。